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2016年9月1日木曜日

【六英雄】六英雄セレナ編 三章【てぃーんの小説】

※こちらはオリジナル、pixivにはございません。


六英雄セレナ編 第三章


第三章 偶像としての英雄


 サーマ王国、王城謁見の間。
 セレナはそこに膝をついていた。

「救国の英雄セレナよ」
「はい」

 重々しく、国王が口を開いた。

「面《おもて》をあげろ。そのままでは話しづらい」

 大きくため息をつきながら、国王は口にした。
 セレナは顔を上げ、国王の顔を見た。彼の表情は疲労の色がかなり濃かった。

「すまぬな。お主のような麗人を前にしておるのに、疲れていて笑えぬ。細かいことはアーレイに説明させる」

 国王は再度ため息をついて目頭を押さえた。そんな国王を横目に、国王の右隣からサーマ王国第一王子『アーレイ』は現れた。

「久しいな、セレナ。我が愚弟があれからまた迷惑をかけていないか?」

 アーレイは笑みを浮かべている。その笑みはアリウスに僅かに似ていた。

「滅相もございません。私がご迷惑ばかりおかけしておりまして」

 アーレイの容姿は非常に整っていた。
 髪色は栗色で、アリウスよりも長く伸びている。その長く伸びた髪を頭の後ろで一つに纏めていた。
 瞳はアリウスとは違い黄色に近い緑色をしていた。肌は健康的な褐色だ。

「ははは。社交辞令も言えるようになったのは良いことだな」

 しかし性格は真逆と言ってもいいだろう。アリウスを誠実と表すのならば、アーレイは剛健だ。

「さて。もっとお前をからかいたいが、如何せん時間がないから単刀直入に言うぞ。お前は我がサーマ騎士団に入れ」 
「サーマ騎士団に……」
「勿論、ただで、とは言わん。お前はサヴァトの族長だったな」

 セレナの片眉が僅かに動いた。その変化を彼は見逃さない。

「サヴァトは歴史の古い海洋流浪民だったな。もっと必要だろう? 土地や地位……総じて、権力が」

 アーレイは口角を上げる。
 一目見ただけでは、ただの交渉だ。
 しかし実際は脅迫だ。
 彼女が纏めるサヴァトの名を出し、それに彼女が反応した時点でアーレイは圧倒的優位に立った。あの僅かな反応。通常ならば見過ごす行動。それを彼は見逃さない。見逃すわけがない。

 守りたいだろう? サヴァトの民を。この前後不覚の戦場から。

 彼はそう言ったのだ。
 断ればどうなるかはわからない。しかし、今まで通りなどとはいかないだろう。
 普段ならばさらりと断れば良い。それをわかっているからこそ、アーレイも“今までは”このようなこと、言わなかった。サヴァトをネタにゆすろうとも、セレナは屈しない。ならばと海洋資源提供を止め、サヴァトの知識を分けず、自分自身が協力しないことを引き合いに出せば、冗談で終わる。
 だが現状は違う。
 セレナとて何もわからない。サヴァトだけでは何も解決しない。そして何よりも……この提案は合理的だ。
 多くの民を守ることができよう。
 英雄の名があるだけで、士気は上がるだろう。
 しかもセレナは美女だ。絵にもなりやすく、民の多くは諸手を上げて喜ぶだろう。
 結局、どのような状況下であれ、手に入れる価値があるのだ。“救国の英雄”という偶像は。

「返事が出るまで王都にいると良い。悪くない話だぞ、サヴァト族長セレナ。お前のレクシーダと話し合って決めるのも一興かもしれんな」

 アーレイは一笑する。
 そのときセレナは、確かにレクシーダの怒りを感じた。
 次の瞬間、アーレイの足元から鋭利な氷がいくつも具現した。

「なっ……」

 その氷は触れれば切れるほどに鋭く、冷たかった。

「貴様、セレナァ!」

 腰から剣を抜こうとするアーレイの腕の隙間を縫うように、また氷が伸びる。

「これが貴様の答えか、サヴァト族長セレナ! この国を敵に回すということか!」
「滅相もございません。レクシーダ、お止めなさい」

 ぱらぱらと氷が細かく砕けていく。

「貴様、反逆罪で……!」
「やめろ、やめろアーレイ」

 国王は再三ため息をつく。

「お前がレクシーダと話し合えと言ったのだろう? あれはレクシーダの返事だ。セレナの返事ではない」
「しかし父上!」
「下がれ。黙っていようと思ったが、やはりお前に政は早すぎた」
「父上!」
「下がれ。貴様はここにいなくても良い。邪魔だ」
「ですが……」
「くどいぞ、アーレイ! 下がれ! 余は疲れている!」
「……御意」

 渋々アーレイは謁見の間から姿を消した。

「すまぬな、セレナ。あれでも考えあってのことだ。しかしやり方が悪い。サヴァトを出汁にするとは。愚息に代わり謝ろう」
「そんなっ! 私ごときに頭を下げるのはお止めください!」

 それでも国王は頭を下げた。そして疲れた表情のまま、国王は言を繋ぐ。

「やはり騎士団には来れぬか?」
「非常に光栄です。ですが私はまだ……」

 それ以上、セレナは口にしなかった。いや、出来なかった。

「ならば待つ。しかし近いうちにまた誘うことになる。その時に、私だけでなく他の者も納得できる答えをくれ」
「はい」
「それとな。もうひとつ頼みがある。少しだけでいい、王都を歩いてほしい。英雄が来ただけで喜ぶ者が多いのでな」
「はい。それは喜んでお受けいたします」
「助かる。もう下がってよいぞ。つまらぬことで呼んですまなかった」
「失礼いたします」
 セレナは立ち上がり王城を後にした。


 王都は空気が重かった。いつもは活気がある市場では、店を開いているものは少なく、開いていても椅子に座り煙をくぐらせているものが大半だ。

「アピリをいただいても?」

 セレナは海洋果実を一つ手に取り、店員に声をかけた。

「30ゼルだよ」

 銅貨を渡すと、店員はセレナの顔を見て目を大きく広げる。

「セ、セレナ様!!」

 一瞬で市場がざわついた。

「皆さん、元気がありませんね。ここの市場は活気がある方が似合いますよ」

 にっこりと笑みを浮かべ、セレナは店員の手を握る。

「貴方達は私達が……サーマ王国の騎士が、海軍が守ります。どうか安心してください」
「あ……ありがとう、ございます」

 彼女の周りに人が集まり出す。

『セレナ様!』
『救国の英雄様だ!』
『セレナ様! この果実をどうぞ』
『あぁどうかセレナ様、我が子に会っていただけませんか』
『救国の英雄に栄光あれ!』
『セレナ様だ、セレナ様だ!』

 一人一人に丁寧に、彼女は笑みを向け、答えていった。
 セレナは胸が苦しくなるのを感じた。
 彼らはどれだけ不安であったのだろう。あの天使達は王都近辺にも現れたという。そんな中で身を震わせていたのだろう。何もわからないから。何も知らされていないから。
 自分程度が彼らの話を聞くだけで癒されるというのならば、喜んでこの身を捧げよう。

「わぁ……お人形さんみたぁい!」
「え……?」

 その言葉に、一瞬セレナの表情が固まった。

「セレナ様きれー!」

 少女の何気ない一言だ。
 セレナはしゃがんで少女の頭を撫でた。しかしその手は僅かに震えていた。

「あなたはきっと、もっと美人になるわ」 
「ありがとうー!」

 少女は女の子の人形を腕に抱えていた。

「可愛いお人形ね」
「うん! お母様が作ってくれたの!」

 大切にしているのだろう。少女はそれをしっかりと抱えている。その人形は、何も文句を言わない。ただ少女の……この人形にとっては神に等しい少女のなされるがままだ。

「大切にね」
「うん!」

 人形……。
 あぁ、何を勘違いしていたのだ。

「えぇ、私達が必ず皆様の笑顔を守ります」

 微笑めばよいのだろう?

「まぁおばさま。足が悪いというのに、ありがとう」

 優しくすれば満足だろう?

「このようなところで求婚はやめてください、まったく……」

 初な乙女のように恥じらえば良いのか?

「私達がこのサーマを守り抜きます」

 癒すなんて、何ておこがましい。

「それでは私は行きます。ありがとう、あなた方の笑顔を見れて勇気をいただけました」

 背を向け歩き出した彼女に皆が手を降り声援を送る。

「……ふふっ」

 自分は偶像等ではなかった。自分はきっと、自由のない操り糸に絡まれる。

「馬鹿みたい」

 意思を持たない、操り人形。

「私は……」

 民の望む英雄を演じる道化の人形だ。

「偶像なんかじゃないんだ」

 奇しくも、自由を求めたセレナとは対極。
 救国の操り人形は涙を流した。それはきっと、糸を繰る者から見れば美しい涙であろう。民の声援に、愛を、勇気をもらい、旅立ちの涙と見えただろう。

「本当……馬鹿じゃないの」

 操り人形が自由など謳えるわけないと気付いた、涙だったのだ。

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