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2016年8月31日水曜日

【六英雄】六英雄セレナ編 二章【てぃーんの小説】

六英雄セレナ編 第二章
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 二章 親友との別れ



 海軍駐留キャンプ、治療テント。
 突如襲いかかってきた天使たちとの争いは、まだ続いている。
 しかし、最前線にいたセレナ、ルキナ、アリウス、メザは一時的に後方に下がっていた。
 それも無理はない。援軍や支援物資、部隊再編、負傷者の保護、王国民の安全確保……その他諸々の準備が整う約五時間、彼らは休むことなく戦い続けた。

「セレナ、無事で良かったわ」

 ルキナが奥に座り込んでいるセレナへと駆け寄る。
 セレナは疲れた瞳でルキナを見て、朧気に微笑んだ。

「あなたも無事で良かったわ、ルキナ」

 セレナは立ち上がり、ルキナを優しく抱き締めた。

「今の状況はどう?」

 抱擁を終えると、セレナはすぐにルキナに尋ねた。
 ルキナは父が海軍将官だったため(またセレナの親友ということもあるため)、多少は海軍から話を聞きやすい立場にいた。

「今は海軍、海賊共に共同戦線よ。なんとか近海からは追い払ったけど、未だに天使たちとの戦いは続いているわ」

 セレナは瞳を細めた。

「もう少し休んだら私もまた出るわ」

 セレナが細く息を吐きながら言った。しかし、ルキナは首を横に振った。

「駄目よ。あなたはこれから王都に向かわないと
「何を言ってるの!? こんなときに……!」

 ルキナはセレナの両肩に手を置き、優しく微笑んだ。

「いいえ、あなたが行くべきよ。あなたは英雄なの。今この国にはあなたが必要なのよ
「偶像として……必要ってこと?」

 一時的に戦線が下がってもいい。
 ただ必要なのは〝救国の英雄〟が戦い、〝存在〟しているという真実。

「それにセレナ。あなたは休んで

 セレナは唇を噛んだ。偶像として立つことが必要なのは理解している時にはそれも必要だろう。しかし何故、親友が、友人が闘っている中離れなければならないのか。

「セレナ、大丈夫よ。あなたが戻ってくるまでの間、私たちがここは守るわ。それに陸軍でも活躍している騎士は多い。私たちを信頼して?」
「でもルキナ……あなたは早くお母様に会いに行きたいんじゃあ……!」

 そう。ルキナの父が書き残した手紙には、彼女の母のことが書かれていた。
 本当ならすぐにでも旅に出るつもりだったルキナだったが、今セレナが海軍へ一時的に協力していることを知り、旅に出る前に力になると名乗り出たのだ。

「私のことはいいわ。それに私ももう長くは海軍にいるつもりはないの。アリウス様とメザがいるなら、ここも大丈夫だという確信も得られたし」

 ルキナは笑みを崩さず、セレナに諭すように話し、今度はルキナからセレナを抱き締めた。

「大丈夫、大丈夫よ。安心して行ってきなさい」

 セレナは目頭が熱くなるのを感じたが、溢れそうに涙を悟られる前に飲み込んだ。
 今、この国の中で一番苛烈な戦場にいるにも関わらず、親友は笑顔で自分を見送ろうとしているのだ。
 それに涙で応えるべきではない。

「ごめんなさい、ルキナ。私には私の役割があるものね。行ってくるわ」

 ルキナはゆっくりと頷いた。

「それと、アリウス様とメザにはちゃんと声をかけてから行きなさい。いいわね?」
「えぇ、わかったわ」

 セレナは微笑みをルキナに向けて、救護キャンプから出ていった。
 セレナはまずアリウスの元へと向かった。彼も怪我をしていたはずだが、何故か救護キャンプにはいなかった。そのことから考え、彼女は海軍総司令のいるキャンプへと向かっていた。

「アリウス様もメザも、得意じゃないのよね……私って」

 短くため息をつき、彼女は肩を落とした。

「そりゃあ仕方ねぇさ。かたや第三王子、かたや元海賊だもんな?」

 セレナの背後から声をかけたのは、メザだった。

「メザ。怪我は大丈夫そうなの?」 

 セレナは驚くことなく、そう言った。
 メザには目立った怪我はなかった。

「おう。今ちょうど治療してもらったところだ」

 肩をすくめてメザは答えた。

「治療キャンプにはいなかったけど?」
「俺とアリウスはお前やルキナとはまた違う〝役職持ち〟なんでな。俺としては一緒でいいって言ったんだがなぁ、なんとも……

 メザは頬を掻きながら言った。

「まぁいいわ。知っているとは思うけど……
「おう、王都に向かうんだろ? ついでに誰か有能な奴連れてこいよ」
「期待しないで待ってて。アリウス様はどこにいるの?」
「あいつならそのキャンプの中だ。俺はちょいと野暮用で外に出てたんでな」
「そう」

 短く言って、セレナはキャンプの簡易ドアをノックせずに開けた。

「アリウス様?」
「はい?」

 セレナの目線の先にいたのは、上半身に何も着ていないアリウスだった。
 細身に見えた肉体は、真実、締まった肉体であることの証明であった。体の凹凸はしっかりとわかり、しかしそれに暑苦しさは感じられなかった。
 体には大小様々な傷があり、それが彼の努力、そして今までの戦いの数を物語っていた。

「セレナ様ではないですか。このような姿で申し訳ない」

 アリウスは嬉しそうに微笑んだ。そしてすぐに服を着る。

「アリウス様、ご無事で何よりです」

 セレナはアリウスへと恭しく頭を下げる。

「やめてください。私ごときに救国の英雄が頭を下げるなど」
「何を仰るのですか。あなたはサーマ国の王子です。これでも大分フランクにしているつもりです」

 はぁ、とアリウスは嘆息した。アリウスとしては、メザに対するぐらいの接し方をしてほしいのだが、如何せんそれがセレナには伝わらない。

「それでどうかされましたか、セレナ様」
「はい。これより私は王都に向かうため、一時戦線を離脱いたします。そのため、ご挨拶だけでもと思いまして」

 アリウスの表情が曇った。

「申し訳ありません。父には一応、このような状況でセレナ様を戦線より外すのはどうかと苦言は申しましたが、頑固者でして」

 申し訳なさそうに目を伏せたアリウスに、セレナは僅かに好印象を抱いた。
 この人はこの国を思い、そしてこのような状況で自分が王都へ行くのを嫌がるということをわかっていたのだろう。

「そのお心遣いだけで私は嬉しく思います」

 セレナはまた頭を下げる。

「ここの戦線は私とメザ、そしてルキナ様で必ず死守致します。どうかご安心してください」

 ルキナと似たようなことを言う王子に、セレナは知らず微笑んだ。その笑みを見たアリウスは頬を紅潮させ、目を逸らして頬を掻いた。

「それでは行ってまいります」

 セレナは戦友を残し、この海軍駐留場をあとにした。


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