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2016年8月29日月曜日

【六英雄】六英雄セレナ編 一章【てぃーんの小説】

六英雄セレナ編 第一章
※こちらはpixivでもご覧になれます※


一章 救国の英雄【ジル・デ・ラーヴァ】
※リンクでpixivに移動します


 サーマ王国、海洋流浪民自治区サヴァトの族長の家系に生まれた少女がいた。

 彼女の名は〝セレナ〟。

 光に当たると碧色に輝く青い髪、凪いだ海のように穏やかな藍色の瞳、顔立ちは清廉で、道を歩けば世の男共は、一度は必ず彼女を見やるほどの美貌。
 彼女の頭には髪色と同じ青い薔薇の花飾りがあり、その花が語るように彼女にはあらゆる〝奇跡〟を希望されていた。

 彼女は幼少の頃より伝統の長剣技を叩きこまれて育った。その才能は他の族長候補の中でも群を抜いており、14歳の頃には当時の族長が族長の証である宝剣レクシーダを授けようとするほどであった。しかし、彼女は若年であることと経験不足を理由にそれを固辞し続けた。

 18歳の時、周囲の重圧に負け、固辞し続けてきた族長の証である宝剣レクシーダを授かる。拒み続けてきた宝剣だが、セレナとの相性は良く、もともと鋭かった彼女の剣筋は、冷たさを感じるほど研ぎ澄まされていった。彼女と相対した者は、その迫力から戦いの前に凍えるような震えを感じたと言われている。

 そんな彼女の真価が世に知れ渡ったのは、サーマ王国で内乱が起きたときだった。
自ら族長を務めるサヴァトの民を率いて国王軍に協力し、多大な戦果を上げた。その功績から、サーマ国王より【救国の英雄】を意味する【ジル・デ・ラーヴァ】の称号を授けられる。サヴァトの民は大いに喜んだが、本人は辞退の理由を考え続けていたという伝承も残っている。

 そして彼女の真の戦いの物語は、ここから……そう、ここから始まるのだった。
ある日の夜中、セレナは王国内の海軍駐留地の中でも大きいキャンプの中にいた。
彼女はサヴァトに伝わる伝統的な海洋酒(サーマ王国内海洋で採れる海樹を蒸留して作られる酒の一種)を、二人で静かに飲んでいた。

「ねぇ、ルキナ。私どうしよう」

 セレナは机を挟んで座る美女へと語りかけた。
 美女の名は騎士〝ルキナ〟。
 セレナが幼い時、次期サヴァト族長候補としてサーマ国王に謁見に向かった際に初めて彼女と出会った。
 その時、人ならざる姿をしているルキナにセレナは強く惹かれた。自分と似た髪色、しかし上品な 翡翠を散りばめたような輝きを放つ髪。それにミスマッチすぎる、頭は龍に似た鰭《ひれ》、背中には小さな翼、そして尾が生えていた。
 そんなルキナに、邪険にさられることを覚悟し、セレナは声をかけた。
 当のルキナは穏やかな笑みと女性らしく柔らかい礼をし、彼女を敬う姿勢を見せた。
 そんな礼節をわきまえた美しい彼女とセレナが親友となるのに時間はかからなかった。
 ルキナは尾をゆらりと小さく振ると、酒を一口上品に飲んだ。

「どれのこと?」

 柔和な笑みを向け、彼女はセレナを見やった。

「どれだと思う?」

 はぁと大きくため息をついた。
 セレナの溜息で燭台に灯る火が弱く揺れた。
 ルキナは頬杖をついた。

「どれのことだと思ってほしい?」

 質問に対し質問で返したセレナに、ルキナはまた質問に返した。

「やめて。全部よ、ぜーんぶ」

 またセレナはため息をついた。

「セレナ。あなたの悪い癖よ。全部一気に片付けられるなんて思っちゃ駄目。今、あなたが一番解決したい問題はなに?」

ぴしゃりと冷や水をかけるようにルキナは言った。セレナは目を伏せ、口を尖らせた。

「救国の英雄を辞退したいわ」
「ふふ、それは駄目。あなたは国に期待されちゃってるのよ」

 軽やかにルキナは笑う。それに「むー」などと子供のようにむくれるセレナ。見た目に反した子供らしい仕草は、今はルキナのみにしかセレナは見せなくなっていた。

「じゃあ次に解決したいことはなにかしら、救国の英雄さん?」
「……王子のこと」

 ルキナは苦笑して、頬を掻いた。

「あれは、ねぇ……私もびっくりしたわ」
「一番びっくりしたのは当人の私よ。『英雄セレナ様のために描きました!』なんて第三王子に言われたんですもの」

 憔悴し机に突っ伏したセレナの頭をルキナは優しく撫でた。

「アリウス様については、今は距離を置きましょう? それに、彼もそれどころではないし」

 何故かサーマ王国第三王子アリウスは、セレナへ熱烈な支持を掲げていた。最近では彼女の許可なくセレナの絵画を公開し、セレナを大いに驚かせた。そんな彼は今までは第三王子という立場から海軍司令をしていたが、先の内乱の責の一端と新しい司令が見つかったということから、海軍一番隊隊長として持ち前の剣の才能を遺憾なく発揮していた。除名にならないことが王族の凄いところであるが、そのような汚名を返上するほどに彼の一兵士としての実力は確かなものだった。

「あなたは大丈夫なの、ルキナ?」

 海軍の先を憂いた内乱に参加していたルキナの父は、戦禍の中心におり、ルキナに手紙を残してから姿を消してしまった。

「えぇ。私を擁護してくれた英雄さんがいたみたいなの。その英雄さんには、今でも感謝しているわよ」

 瞳を細め、慈愛の眼差しをルキナはセレナに向けた。

「あなたのお父様だって、本当はあのようなことする人ではないわ」
「色々ありがとうね、セレナ」
「少しは借りを返さないとね」
「ふふ、そうね」

 二人は笑い合うと、酒を一口飲む。すると、警鐘が激しく鳴り響いた。

『警告! 十時の方角に海賊発見! 海賊旗から、冬彩のスティア海賊連合! 数八隻!』

 セレナはレクシーダを手に取りキャンプから出た。
 警告通りの方角に、確かに海賊らしき船が八隻見つかった。
 ルキナはセレナに遅れ、ゆっくり現れた。

「毎度毎度、飽きないわね……」

 ルキナはため息をついた。

「でも、今回はボスがいそうよ」

 セレナが一番大きな海賊船を見ながら言った。
 冬彩のスティア海賊連合という海賊は、サーマ海軍総司令官が変わってから結成された海賊の集まりだ。それからというもの、ことある毎にここに攻めいっていた。

『砲撃を確認!! すぐに退避、もしくは防御行動を……!!』

 見張りが大きく言う。

「ルキナ、行くよ」

 彼女はレクシーダを下から上へ弧を描くように振り上げる。レクシーダから細やかな輝きが漏れると、すぐその後に巨大な氷の壁が剣の軌跡をなぞるように現れた。それはこのキャンプ海岸部に近いキャンプ一帯を覆いつくし、海賊の砲撃を容易く防ぐ。

「さすが救国の英雄ね」

 ルキナは剣を抜き、小さな翼をはためかせ大きく飛ぶと、また元の位置に戻ってきた。一見、何も起きていなかった。

「〝普通〟の兵への道は私が支援するわ。セレナ、英雄らしく先頭で戦いなさい」

 とん、とルキナは氷の壁を軽く突くと、壁は前方へと砕け散った。それは規則正しく海賊船八隻への道となった。

「はいはい」

 セレナは氷の道を使わず海面へと走っていく。彼女の足が海面へ着くと同時に氷の足場が現れ、足が離れると消えた。
 すると後方から海軍の怒声にも似た掛け声が上がった。

「英雄セレナへ続けー!!!」

 その声を発したのは海軍一番隊隊長のアリウスだ。
 アリウスはルキナが造り上げた氷の足場を器用に飛んで歩き、海賊船へと向かった。
 さらにその後ろからは……

「おらぁ野郎どもぉぉぉぉ! 俺に続けぇぇぇぇぇ!」

 大斧を持った〝現海軍総司令〟のメザが続いた。
 だがしかし、悲しいかな。彼らに続けるのはこの場ではルキナ一人のみであった。
 ルキナは残った隊の隊長や隊員に、決してこの場から逃げぬことと自分達が必ず勝利することを伝え、三人へと続いた。
 残された兵士は後に語る。

――この世は、余りにも不公平で、だが、才能あるものには、なんとも平等なのだろうと。

 並みの海賊はセレナと目が合うと、すぐに首を横に振り武器を捨てて両手を挙げた。

「その程度の覚悟なら勝負なんて挑まなければいいのに……」

 彼女は真っ直ぐに一番大きな海賊船へと向かった。海賊旗は他の船に比べても大きく、おそらく連合の要である冬彩のスティアがいるであろうと思わせた。

「この愚図どもぉぉぉぉ! テメーら本当に金○ついてんのか! 情けねー!」

 悪言を撒き散らしている女性の声が船からした。

「この口汚さは、間違いなさそうね」

 セレナが飛び上がり船の甲板へと降り立つ。甲板にいた十数人の海賊たちは、セレナを見ると一目散に逃げ出した。

「ったく、本当にカスどもだ」

 逃げなかった何人かの海賊の群れが割れる。その割れた道からゆっくり現れたのは、冬彩のスティア本人であった。

「はじめまして、冬彩のスティア。噂通りの容姿に似合わぬ悪舌ぶりで。お会いできて大変後悔しておりますわ」

 慇懃無礼に彼女は言うと、スティアは端正な顔に似合わず唾を吐き、先端と後端に刃のある薙刀を肩にかける。

「反吐が出るほど薄汚ねぇ挨拶をどうもありがとう、ヘドロ塗れの英雄さんよぉ」

 音を置き去りにしてセレナが疾る《はしる》。
 刹那の不意打ちをスティアはつまらなそうに薙刀で受け流した。

「おーおー、ヘドロ塗れの英雄はやることが汚いねー。こりゃあサーマもサヴァトも長くねーなー」
「そのような口が二度と叩けないように、氷で塞いであげるわ」
ひゅう、と口笛を吹くとスティアは薙刀をかまえる。
「はっ! テメーの汚ねーハラワタでバーベキューでもすりゃあ王国も……メザも目が覚めるだろ!」

 氷と氷が互いにぶつかる。空間すらも凍りつかせる剣戟でセレナは斬りつけ、滑るように薙刀を振るうスティアはそれをいなしていく。
 徐々に彼女らの周囲は凍りついていく。セレナが剣を振るうとスティアはそれを受け流しながら一つの刃を彼女へ向けそれ以上の攻撃を牽制する。だが、スティアが薙刀の二対の刃を振るいながら攻撃をすると、氷の扱いに長けているセレナが壁を作り出し攻め足を弱めた。
 つまり、二人は相性が悪い。
 長剣でリーチがある分薙刀に絡めとられやすいセレナ。
 武器の相性で勝っているスティアだが、氷の魔力では遠く及ばず、すぐに壁を張られ攻撃を中断せざるを得なくなる。
 ならば、何故セレナは魔法で遠距離から勝負を仕掛けないのか。
 それはスティアの瞳にある。セレナは察している。この者と距離を取り詠唱を開始しようとした瞬間に、〝何かの方法〟で一撃で仕留められるであろうことを。
 そしてスティアは、〝それ〟を演じている。
 わざと瞳で挑発する。距離を取ってみろ、殺してやる、と。しかし、そのような術彼女にはないのだ。
 戦闘の総合力ならばセレナに軍配が上がるだろう。
 しかし、騙し合いならばスティアが圧倒的だ。
 二人がわずかな間合いを取った。どちらも攻撃の射程範囲内には入っていた。

「はっ! 手間かけさせるじゃないか」

 冷静な声でスティアは口にした。

「お互い様ね」

 セレナもまた冷静であった。世間話でもするように、彼女はスティアの言葉に応える。
 ひゅ、と互いが短く息を吐くと、遠くで高い水柱が上がった。
 セレナはそのようなこと気になどせず剣を振るおうとしたが、スティアはそうではなかった。そんな スティアを見て、彼女は自分の〝誇り〟から剣を止める。
 心ここにあらずというように、その水柱を少し見ると、その水柱が上がった方角へと氷の道を作り出した。

「逃げるつもり?」
「まぁな。背中から攻撃してもいいんだぜ? その代わりお前は一生、海賊如き相手に、背中からじゃないと一太刀も浴びせられない卑怯者として語り継がれるけどな!」

 ははっ! と短く笑って、スティアは自分が作り出した氷の道を進んだ。
 そのとき、スティアが「メザァァァァァァ! この野郎覚悟しろぉぉぉぉぉ!」と叫んでいたのがよく聞こえた。
 セレナはそんなスティアを見送ると、背後へと視線を向ける。
 何人かはこちらへと敵意を向けていたが、さすがに真っ当に戦っても勝てる自信はないのだろう。
 セレナはレクシーダを鞘にしまう。

「賢明な判断ね。安心して、船を壊したり、あなた達の命を奪うつもりはないから。狙いはあの女だけ」

そして彼女がスティアを追いかけようと船から降りようとしたときだ。
巨大な光柱がいくつも降り注いだ。

「なっ!」

 セレナが驚くのも無理はない。あと一歩踏み出し海に出ていれば、彼女はその光柱に飲まれていたのだ。光柱が堕ちた海面は綺麗に丸く蒸発し、少しの間ぽっかりと空いた穴を維持していた。

「何が、起きて……?」

 彼女か呆然としていると上方から殺気が放たれる。それを瞬時に察したセレナはレクシーダを抜き、凶刃を受け止めた。

「何者……!?」

 再度セレナは驚愕する。
 彼女の目の前には、天使がいたのだ。純白な一対の翼を有する天使は無感情な瞳をセレナに向けている。

「嘘、天使様って、実在したんだ」

 しかし、現状が現状だ。セレナは剣を弾いた。

「天使様、何故!?」

 天使はセレナを一撃で倒せないとわかったのか、彼女を無視して後方にいる海賊たちへと襲いかかった。
 海賊たちも何が起きているのかわからないのか、天使に攻撃しようとして返り討ちにあったり、逃げ出そうとした背中を斬りつけられていたりしていた。
 また天使はどんどん空から現れ、無利益な凶行を繰り返した。
 やがて、この船だけでなく至るところから阿鼻叫喚が聞こえた。

「嘘、なんで、天使様が……?」

 セレナとて女性だ。幼き頃から天使というものに憧れていた。
 そう、人を慈しみ、愛し、救う天使に。

「やめ、て」

 海賊を惨殺する天使の一人がこちらに振り向く。
 皆、同じ顔のように思えた。
 無感情な瞳。返り血を拭くこともしない、殺戮の天使。

「やめろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっぉぉおぉ!」

 憧憬を粉々に壊されたセレナは叫びながら、天使へと攻撃を始めた。

――そして、人々と神々の戦いは、こうして幕を開けたのだった。

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